導入
本ケースでは、NocoBase が大規模な企業向けソフトウェア基盤をどのように補完し、強化するのかを紹介する。自社開発力の高い企業であっても、細かな追加要件に対応するには、軽く扱いやすいオープンソースのノーコード/ローコード層が最も実用的な選択肢となる場面が少なくない。
業界背景:石油化学のデジタル化
石油化学産業のデジタル化を語るうえで欠かせないのが「複雑さ」である。工程の違いは大きく、統一基準の徹底も難しく、現場の業務要件は絶えず変化し続ける。
工場ごとに工程ルートや設備規模、組織体制、安全管理の仕組みが異なるため、巡回点検や是正手続きといった基礎的な業務でさえ、企業によって運用方法がバラバラになる。

そしてこの問題は石油化学だけの特殊事情ではない。多くの B2B ソフトウェア企業が、多様な顧客環境に向き合う中で同じ課題に直面している。
直面していた主な課題
この企業(※クライアントの要望により匿名)は、長年にわたり石油化学業界向けのソフトウェアを提供してきた。
世界各地の大手石油化学企業を数百社抱え、自社開発力も高く、産業デジタル化の分野では確かな実績を持つ。また、ワークフローやフォーム中心の場面で使う独自のローコード基盤も運用している。
ただ、日々の案件対応を続ける中で、直面している課題は石油化学に限らず、多くの B2B ソフトウェア企業に共通する構造的な問題だと気付き始めた。
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カスタマイズはもはや避けられない
どれほど完成度の高い製品でも、すべての企業ニーズを満たすことはできない。
石油化学では企業ごとの差が大きく、安全管理や是正ワークフロー、協力会社管理、作業許可の運用など、細部の要件が大きく異なる。そのため顧客からは微調整だけでなく、完全なカスタム開発を求められることも多い。
要望に応えられなければ案件獲得が難しくなるが、コア製品に手を加えるとアーキテクチャが乱れ、逆に品質や安定性を損なってしまう。専用開発に走ればコストや保守負担が跳ね上がる。
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自社ローコード基盤の限界
自社で作ったローコード基盤が得意とする領域は、あくまでワークフローやフォーム中心の比較的定型的な業務。しかし、複雑なデータ処理や細かい画面インタラクションが求められる場面では、柔軟に対応しきれない。
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システムが乱立し、統合コストが高い
石油化学企業には、安全・環境、設備、巡回、DCS、映像など、多数の業務システムが並行して動いている。
データの規格も API の形式もバラバラで、これらを接続するための統合作業は、アプリを作るより負荷が大きくなる場合も多い。
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開発リソースが常に逼迫する
案件ごとの追加対応や細かな修正依頼に追われ、コア製品の進化に集中できる時間がどんどん奪われていく。
以上のように、彼らにとっての課題は「業界特有」ではなく「B2B ソフトウェア企業が避けて通れない構造的な悩み」となっていた。
最適なプラットフォームを探して
案件の要求が増え続け、自社のローコード基盤では対応しきれなくなってきたため、チームは外部のローコード製品を本格的に比較検討することにした。
彼らが求めていたのは次のような条件を満たすプラットフォームだった。
- コア製品とは切り離して運用できること
- 複雑で企業ごとの差が大きい業務にも柔軟に対応できること
- バラバラなシステム間のデータをつなぎ込めること
- フロントとバックの開発負担を大きく減らせること
- 長期的にスケールし、継続して運用できる基盤であること
複数の候補をテストし比較した結果、彼らは NocoBase を採用する決断をした。
主な理由は次の通りである。
- オープンソースで、必要なときに自分たちで手を加えられる
B2B ソフトウェア企業にとって、技術スタックを自分たちで完全にコントロールできることは大きな意味をもつ。要件が変わった際、プラットフォームの制約を受けずにコードレベルで自由に改修・拡張できる点が重要だった。
- 複数データソースをそのまま扱える仕組み
石油化学企業ではシステムが多岐にわたるため、データが分散しがちである。NocoBase は外部データを一つのアプリ層に集約でき、統合ビューや一貫した業務フローを構築しやすい。
- 長期運用に耐えるプラグイン拡張
プラグインとして機能を追加できるため、コア製品には手を触れずに個別要件へ対応できる。拡張部分は構造化されており、独立性が高く、長期的な保守や改善にも向いている。
- 企業利用に必要な基盤機能が揃っている
権限管理、API ゲートウェイ、多言語対応など、複雑なロール体系や厳しいセキュリティ基準に応えるための機能が始めから備わっている。これらを一つのプラットフォーム内で完結させられる点も評価された。
二つの主要なユースケース
ユースケース 1
顧客ごとの追加要件への対応
NocoBase は、コア製品には影響させたくないものの、短期間で仕上げる必要がある個別要望に非常に向いている。
例えば、既存メニューの下に小さな専用ページを追加し、特定企業だけが使う業務フローを支える、といった場面である。
こうした要望には共通点がある:
- 企業ごとに内容が異なり、再利用はほぼ見込めない
- コア製品に組み込むとバージョン管理が煩雑になる
- コードで作り込むとコストが高く、保守負担も重い
- しかし検収条件や実務上の理由から、顧客はどうしても必要とする
そこでチームは NocoBase を活用した新しい納品方式を整えた:
- NocoBase 上で小さなモジュールを素早く構築
- コア製品とユーザー/権限/データを連携
- 既存システムのメニューや画面構成に自然に組み込む
- 表面上は一体のシステムだが、内部はきれいに分離されている
成果
- 同規模タスクの工数をおよそ 70% 削減
- フロント・バックの分業が不要になり、1 人で完結できる
- コア製品のロードマップが乱されなくなる
ユースケース 2
社内向けツールの構築
企業規模が大きくなるにつれ、社内プロセスは変わり続け、それに合わせてシステムも頻繁に調整が必要になる。しかし R&D チームに依頼すると、主力製品の開発が停滞する。市販 SaaS は自社の業務に合わず、結局使いこなせない。
そこで NocoBase は「必要な時にすぐ作れる社内システム基盤」として機能した:
- ビジネスチームが自分たちで基本機能を設定
- 大半の場面でフロント・バックの専門開発が不要
- プロセス変更にもモジュール調整だけで柔軟に対応
- 主力 R&D のリソースを消費しない
成果
- プロダクトチームは本来業務に専念できる
- 社内システムの構築スピードが大幅に向上
- プロセス運用が実態によりフィット
- R&D に負担を増やさず全体効率が上がる
まとめ
B2B ソフトウェア企業にとって、競争力の源泉は「強いコア製品」と「安定したプロジェクト収益」である。
NocoBase を取り入れたことで、同社はその優先順位をより明確にできた。
- コア開発への徹底集中
これまで細かな追加要望に時間を取られていたコア開発チームが、本来取り組むべき高付加価値の改善・アップグレードに専念できるようになった。
- プロジェクト収益を守る体制づくり
ばらつきの大きいカスタマイズ作業を NocoBase 側で素早く低コストに対応できるようになり、納品時の粗利が大きく改善した。
- 整然とした二層アーキテクチャの確立
「コアシステム + NocoBase 拡張」という構造にすることで、主力製品は無駄な膨張を避け、ロードマップも乱れない。追加要件はすべて分離された拡張層で処理できる。
この仕組みによって、企業は長期的なプロダクト競争力を維持しつつ、現場の変化に素早く対応できる。そして、コストも運用負荷も最小限に抑えられる。
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