数年前に製品マネージャーや技術リーダーに「PoC を最速で作る方法は?」と聞けば、多くの人はこう答えていたはずです——適切なローコード/ノーコードツールを選び、業務フローや画面、基本的なロジックを素早く組み立て、アイデアをまず動く形にすることだ、と。
ところがこの 2 年で状況は大きく変わりました。AI の進化によって、自然言語からフロントエンドコードを生成したり、コンポーネント構造を組み上げたり、ラフなスケッチからさえ UI を作れるようになっています。画面づくりのスピードは確実に速くなり、フロントエンドの一部は AI が代替できるようになっています。最新の Gemini 3ではコード生成やレイアウト理解、インタラクション補完がさらに強化され、フロントエンド設計の流れが以前より直感的で扱いやすくなりました。
では、AI がここまで UI を作れるようになったのに、なぜ PoC にローコード/ノーコードが必要なのでしょうか?
理由は、両者が担う領域がそもそも違うからです。
AI が得意なのは画面や構造の生成ですが、PoC の本質は UI ではありません。必要なのは、その UI を実際に動かすための基盤機能です。データの保存、ビジネスルール、権限設定、外部システムとの連携といった部分がそれにあたり、これらが備わってこそ PoC は本物の業務フローに近づきます。画面だけでは再現できません。
ローコード/ノーコードプラットフォームは、データの接続、ロジックの実行、ロールやプロセスの設定を素早く行え、必要に応じて PoC を本番システムへ育てていく土台になります。
実際の検証フェーズでは、これらの機能は今の AI だけで置き換えることはできません。
💬 NocoBase ブログへようこそ。NocoBase は、あらゆる種類のシステム、業務アプリケーション、社内ツールを構築できる、拡張性に優れた AI 搭載のノーコード/ローコード開発プラットフォームです。完全なセルフホストに対応し、プラグインベースの設計で、開発者にもやさしい構成になっています。→ GitHub で NocoBase を見る
こうした背景をふまえ、PoC に向いているオープンソースのノーコード/ローコードツールを 6 つまとめました。どんな場面に適しているか、どこが強みか、どう使うと良いかを紹介しています。プロジェクトの初期段階で最適なツールを選ぶヒントになれば幸いです。
NocoBase

| GitHub | https://github.com/nocobase/nocobase |
|---|---|
| GitHub Stars | 20k |
| 公式サイト | https://www.nocobase.com/ |
| ドキュメント | https://v2.docs.nocobase.com |
NocoBase は、オープンソースでセルフホストでき、プラグインで柔軟に拡張できるローコード/ノーコードプラットフォームです。企業向けの業務システムや内部ツールを素早く構築するために設計されています。
公式の事例では、ED チームが NocoBase を使い、短期間で複数の内部システムの PoC を作り上げ、検証後は CRM や運用管理、プロジェクト管理などの正式プロダクトへとスムーズに拡張しています。
ED のエンジニアたちは「NocoBase が開発の進め方を変えた」と話しています。データの可視化モデリング、自動 CRUD、柔軟なワークフロー、API の自動生成により、開発者は繰り返し作業から解放され、より早く業務要件の実現に集中できます。QA やユーザーからのフィードバックも短周期で回せるようになり、プロジェクトは速いペースで本番へ進めます。
💡詳しく読む:EDの技術基盤としてのNocoBase:内部システムから商用プロダクトまで
適した利用シーン
- データモデル・画面・業務フローをまとめて素早く構築したい場合(例:社員管理、注文処理、カスタマーサポートの管理画面など)
- 複数ロールや複雑な権限設定、外部システム連携が必要なアプリケーション
- 内部環境での運用が求められ、かつ柔軟に拡張できるアーキテクチャを維持したいチーム
特徴と利用のヒント
- データモデル中心の設計:NocoBase では、まずビジネスオブジェクトや関係、フィールドを定義し、その後に画面やフローを作ります。後から拡張しやすい構造が自然に作れます。
- 細かな権限設定とプロセス管理:システム・データ・フィールド単位で権限を設定できます。PoC ではロールごとに画面やデータアクセスをすぐに割り当てられます。
- プラグインで自在に拡張:データソース、アクション、フィールドタイプ、画面コンポーネントまで拡張でき、PoC では標準プラグインで素早く構築し、必要に応じて差し替えることも可能です。
- AI スタッフ:画面に組み込まれた AI がデータモデルや構造を読み取り、モデリングやデータ処理、JavaScript の生成などをその場で手伝います。PoC ではまず主要なデータモデルとページ構造を整え、AI にフィールド生成や初期レイアウトを任せることで、初期構築の負担を大幅に軽減できます。
Budibase

| GitHub | https://github.com/Budibase/budibase |
|---|---|
| GitHub Stars | 27.3k |
| 公式サイト | https://budibase.com/ |
| ドキュメント | https://docs.budibase.com/docs/ |
Budibase はオープンソースで自社環境に自由に展開できるローコードプラットフォームで、データ接続、業務ロジックの実行、権限設定、ワークフロー自動化といった内部システムに必要な基盤機能を備えています。
適した利用シーン
- データの保存、フォーム処理、承認フロー、管理画面などを備えた社内アプリ(資産管理、社員手続き、顧客ポータルなど)を短期間で作りたい場合
- PoC の段階で PostgreSQL・MySQL・MongoDB・REST API など複数データソースをまとめて扱い、データ層・ロジック層・自動化を一つのプラットフォームで完結させたい場合
特徴と利用のヒント
複数データソースとセルフホストの強み:各種 DB や REST API に接続でき、Docker/Kubernetes で自社環境に展開可能。実業務に近いデータ構造の PoC に向いています。
業務ロジックと自動化:Automations を使えば、データ更新やイベント、外部 API に応じて処理を実行でき、PoC でビジネスルールの妥当性を確認できます。
ロールと権限の仕組み:ユーザー・ロール・リソース単位でアクセス権を設定でき、PoC の段階でも実際の運用に近い権限モデルを再現できます
💡詳しく読む:PostgreSQL対応!今選ぶべきノーコード6選
Appsmith

| GitHub | https://github.com/appsmithorg/appsmith |
|---|---|
| GitHub Stars | 38.5k |
| 公式サイト | https://www.appsmith.com/ |
| ドキュメント | https://docs.appsmith.com/ |
Appsmith は、実データと連携しながら業務ロジックを検証できるアプリを構築するのに適したオープンソースのローコードプラットフォームです。セルフホストやさまざまなデータソース統合にも対応しています。
適した利用シーン
- フォーム入力、データ検索、API 呼び出しなどを中心とした管理ツール(顧客管理、財務コンソール、運用パネルなど)を作りたいとき
- PostgreSQL・MySQL・REST API・GraphQL・Snowflake など複数データソースをまとめ、読み書き・変換・検証を行いたい場合
- UI の操作動線や API の流れを素早く検証したいチーム
💡詳しく読む:オープンソースの高速開発プラットフォームトップ7
特徴と利用のヒント
- 柔軟なスクリプトロジック:コンポーネントごとに JavaScript を記述でき、条件処理、データ整形、API 呼び出しなど、PoC で実業務に近い処理を再現できます。
- データソース統合がしやすい:Query パネルで DB クエリや API を一元管理し、データフローの可視化・デバッグが容易です。
- 権限管理とデプロイに対応:ユーザーロールやリソース権限、セルフホスト、環境変数設定などを備え、PoC の段階で運用モデルの確認が可能です。
- AI Copilot:クエリや変換ロジック、コンポーネント設定の生成をサポートし、初期構築の反復作業を減らします。
ToolJet

| GitHub | https://github.com/ToolJet/ToolJet |
|---|---|
| GitHub Stars | 36.9k |
| 公式サイト | https://www.tooljet.com/ |
| ドキュメント | https://docs.tooljet.com/docs/ |
ToolJet は、社内向け管理ツールの構築に強いオープンソースのローコードプラットフォームです。複数データソースの統合、セルフホスト、スクリプトベースの業務ロジック設定に対応しています。
適した利用シーン
- フォーム処理、データ表示、API 呼び出し、業務操作をまとめて扱う管理ツール(在庫管理、サポート管理、運用コンソールなど)を作りたいとき
- DB、REST API、GraphQL、Google Sheets、外部サービスなど複数データソースを PoC でまとめて扱い、読み書きや検証を行いたい場合
- セキュリティ要件が高く、セルフホストやローカルデプロイが求められる環境
特徴と利用のヒント
- 柔軟なイベントロジック:コンポーネントごとに条件分岐やデータ更新、API 呼び出し、ページ遷移を設定でき、業務フローの流れをそのまま再現できます。
- 幅広いデータソース連携:PostgreSQL、MySQL、MongoDB、Snowflake、REST、GraphQL に対応し、データの取得から更新まで一連の流れを素早く構築可能。
- セルフホストに最適:Docker や Kubernetes で企業内環境に展開でき、ローカルでの PoC 検証にも向いています。
Directus

| GitHub | https://github.com/directus/directus |
|---|---|
| GitHub Stars | 33.5k |
| 公式サイト | https://directus.io/ |
| ドキュメント | https://docs.directus.io/ |
Directus は、どんなデータベースでもすぐに API と管理 UI に変換できる、データ中心のオープンソースプラットフォームです。データ主導のアプリ原型や内部システムの構築に適しています。
適した利用シーン
- PoC の主題がデータ構造やコンテンツ管理、データサービスであり、関係定義や標準 API を備えたバックエンドを素早く用意したい場合
- データの読み取り、編集、表示を柔軟に行いたいケース(CMS、設定センター、データ管理画面、フロント向け API サーバーなど)
- 既存 DB をそのまま使いたい、または PoC でデータモデルの形を整えつつ、前後のサービスに統一インターフェースを提供したい場合
特徴と利用のヒント
- DB 直結で即 API 化:PostgreSQL、MySQL、SQLite に直接つなぎ、そのまま REST/GraphQL API を生成。既存テーブルを活用して PoC のバックエンド構築を大幅に短縮できます。
- 自動生成の管理 UI:入力、リレーション設定、コンテンツ運用を UI 上で完結。PoC ではまず Collections/Fields で最小限のデータ構造を作るのが効果的です。
- 権限とワークフロー:ロールと権限管理が組み込まれており、多役割が関わる PoC でも少ない設定でアクセス制御を再現できます。
Refine

| GitHub | https://github.com/refinedev/refine |
|---|---|
| GitHub Stars | 33.3k |
| 公式サイト | https://refine.dev/ |
| ドキュメント | https://refine.dev/docs/ |
Refine は、React ベースでデータ量の多い管理システムや内部ツールを素早く作れるオープンソースフレームワークです。拡張しやすい構造と豊富な統合機能を備えており、React 技術スタックを活かしたまま管理画面を効率よく構築できます。
適した利用シーン
- React を使ったまま、画面・ルーティング・データ操作・権限構造を備えた管理画面(注文管理、コンテンツ管理、CRM、運用コンソールなど)を短期間で作りたいとき
- PoC で動く UI を素早く用意しつつ、後から柔軟にコードを調整したいチーム(特にフロントエンド開発者がいる場合)
- REST、GraphQL、NestJS、Supabase、Firebase、既存の社内 API と連携し、一覧・フォーム・詳細といった基本 UI パターンを統一されたフレームワークで扱いたい場合
特徴と利用のヒント
- React ベースの高速開発モデル:一覧・フォーム・編集・詳細など管理画面に必要なロジックが最初から用意されており、同じようなコードを何度も書く必要がありません。PoC では Refine の CRUD パターンや Resource の仕組みを使えば、少ないコードで主要フローを動かせます。
- データ・権限の柔軟な統合:複数データソースや認証方式に対応しており、特定技術に依存しません。PoC ではまず customers や orders などの中心リソースを定義し、hooks を使って必要最低限の読み書きを追加するのが効率的です。
- Refine AI:編集画面やロジックの中でコード生成や状態処理の提案を行い、PoC の初期構築を大幅に時短できます。
結び
この 6 つのオープンソースツールは、PoC の目的に応じて強みが異なります:
- モデル・画面・フローを含む一式が必要:NocoBase / Budibase
- データ連携やスクリプトロジック、業務フロー検証が中心:Appsmith / ToolJet
- 標準 API やコンテンツ管理、データサービスが必要:Directus
- React 技術スタックでスピードと柔軟性を両立したい:Refine
AI によって画面生成や一部の作業は格段に効率化されましたが、PoC の本質はあくまで「素早い検証」です。検証ポイントに合ったツールを選び、必要な部分で AI を活用すれば、より低コスト・短期間で重要な業務フローを動かし、チームは判断に直結する部分へ集中できます。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。PoC を検討している方にもぜひ共有してください。
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