序文:開発者はローコード/ノーコードとどう向き合うべきか
ローコードやノーコードは長らく「非エンジニア向けのツール」と見なされがちだった。
しかし今は、データモデリングや権限管理、プラグイン拡張まで備えるほど進化し、さらに AI が急速に進歩することで、状況は大きく変わりつつある。
AI は繰り返し作業のコーディングをどんどん肩代わりし、LLM もコンポーネントや基本ロジックを作れる“新人エンジニア”のような存在になってきた。
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こうした中で、ローコード/ノーコードは単なるドラッグ&ドロップの仕組みではなく、AI と協働しながら開発できる、構造化された開発基盤としての役割を持ちはじめている。
これらのプラットフォームは、明確なアーキテクチャの枠組みや設定モデル、管理された実行環境を提供し、AI を安全かつ効率よく組み込めるようにしている:
- AI が作り出すビジネスロジック:複雑なワークフローもデータモデルも、AI がプラットフォーム内で構築できるようになる。
- 開発者の役割の変化:CRUD などの定型作業より、プラットフォーム設計や拡張開発、AI が苦手な複雑な統合や低レイヤ調整に集中できるようになる。
その結果として、開発者には新しい問いが生まれる:
AI とローコード/ノーコードが同時に加速する世界で、どこまでをコードとし、どこからを委ねるべきか?速度とコントロールをどう両立させ、将来まで続くガバナンスをどう確保するのか?
本ガイドは、技術リーダーや開発者がローコード/ノーコードを使うべき場面を改めて整理し、判断できるようにするためのものだ。
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ローコード/ノーコードを使うべき場面とは?
判断するときは、エンジニアリングの観点で冷静に適合性をチェックすることが大切。基幹システムが一つでも「不向き」の条件に当てはまるなら、従来の開発へ切り替えたほうがいい。
| Step | 確認ポイント | 判断 |
|---|---|---|
| Step 1: 業務の構造 | 業務ルールをテーブルやワークフロー図で無理なく表現できるか? | できない → 向かない |
| Step 2: 画面の複雑さ | UI が中程度より複雑(フォーム、表、標準ビュー以上)になるか? | なる → 向かない |
| Step 3: 性能要件 | 100ms 未満の応答や高負荷処理など、細かな性能調整が必要か? | 必要 → 向かない |
| Step 4: 拡張の見通し | 今後6ヶ月の追加要件や拡張点をある程度予測しモジュール化できるか? | できない → 慎重に利用 |
| Step 5: チーム体制 | プラットフォーム中心の開発フローを受け入れ、設定管理を運用できるか? | できない → 向かない |
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最適なケース:効率を重視したい場面
ノーコード/ローコードの強みは、変化が激しい業務部分(データ、フロー、権限)を、安定したシステム基盤(ランタイムや描画エンジン)から切り分けられることにある。
- 業務ルールが明確なシステム:データモデルやフォーム、ワークフロー、権限設計で成り立つ業務は特に相性がよい。管理画面、社内承認フロー、ダッシュボード、チケット管理、軽量 CRM などが典型例。
- 少人数・短納期のプロジェクト:完璧なデザインより、使いやすさや保守しやすさが重要な社内ツールに向いている。
- 開発と業務の協働が必要な場面:開発者は基盤や拡張機能(API や複雑ロジック)を担当し、業務/運用側が画面調整やフロー更新を行う、という役割分担がしやすい。
適さないケース:性能や設計面でのリスクが大きい場面
以下のような状況では、ノーコード/ローコードの抽象化が逆に足かせとなり、性能低下やアーキテクチャの不透明さにつながりやすい。
- コア機能や高負荷処理が中心のシステム
- 取引エンジンやストリーム処理のように、ミリ秒単位の I/O やメモリ、アルゴリズム調整が必要なワークロードには向かない。プラットフォームのオーバーヘッドが障害になる。
- AI 推論、動画・音声処理などの重い計算処理は、低レイヤまで踏み込める自由度が必須。
- フロントエンドの表現力や体験価値が重要な場合 消費者向けの大規模アプリ、凝ったアニメーション、複数デバイスで統一した体験を求める UI は、フレームワークの柔軟性が必要で、ノーコードでは限界が出やすい。
- フレームワークの限界に何度もぶつかるプロジェクト 「80% はすぐ作れるが、残りの 20% が最も重要」という典型的なパターン。ここから回避策や二次開発が膨らみ、最終的に大きな技術的負債につながる。
💡 詳細情報:なぜ開発者はローコードに苦戦するのか?(本当に役立つ6つのツール)
開発者が主導権を保つための5つのルール
ノーコード/ローコードを使うとき、開発者の役割は“設定する人”ではなく、土台を設計し、運用を管理し、必要な部分を拡張する人である。
- まずはデータモデル。UI はその後でいい データ構造、リレーション設計、権限の境界は開発者が握るべき中核部分。UI 構築は業務チームに任せても、システムの土台はデータモデルにある。
- ルール化できる部分はプラットフォームへ、重要な処理はコードで書く 繰り返しが多い設定型の作業はプラットフォームに任せ、複雑さや外部連携が絡む部分はコードで対応する、という分担が基本。
- サポートされている拡張方法を守り、無理なハックはしない 拡張は公式のモデルに沿って行い、カスタム処理は後から追える場所にまとめる。DB を直接いじったり、描画層を飛ばしたりすると、将来的に保守が破綻する。
- 設定も“コード資産”として管理する ノーコード/ローコードでも DevOps が必要。バージョン管理、開発〜本番の環境移行、承認フロー、ロールバックで設定を管理下に置く。
- チーム全体で知識を共有し、属人化させない プラットフォームの仕組み、拡張の方法、運用ルールをエンジニア全員が理解しておくこと。特定の人しか分からない状態を作らない。
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開発者が検討すべきノーコード/ローコードツール
⚠️ プラットフォーム選定の前には必ず自分で触って確認すること。特にオープンソースはローカル環境で動かし、データモデル、権限設定、拡張方法などが自分の業務要件に本当に合うかを確かめる必要がある。
| ツール | 位置づけ | OSS | 自己ホスティング | 拡張性 | データモデリング | フロント制御 | 得意な領域 | 不向きな領域 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| NocoBase | 企業向けノーコード基盤 | Yes | 公式サポート付きで強力 | プラグイン中心で拡張しやすく、コード追加も可能 | フィールド〜リレーションまで細かく制御できるモデル駆動型 | 中程度、ブロック配置+カスタマイズ可 | 社内システム、CRM、チケット、BPM、運用系ツール | 高度に作り込む UI や複雑なインタラクション |
| Retool | 内部ツール構築 | No | 制限付きで可能 | 中程度、JS ロジックはあるがコンポーネント制約あり | 中程度 | 中程度 | ダッシュボード、API 連携、複数データソース統合 | 複雑なデータモデルや高度な権限管理 |
| Budibase | OSS の内部ツールビルダー | Yes | 強力 | 中程度 | 中程度 | 中程度 | バックオフィス系、フォーム中心の UI | 大規模で構造の複雑な業務システム |
| Appsmith | フロント重視のローコード | Yes | 強力 | 中程度、柔軟な JS 記述が可能 | 基本レベル | 豊富なフロント部品で強い | UI 主体の社内ツール | 複雑なワークフローや権限中心の業務 |
| ToolJet | 汎用ローコード | Yes | 強力 | 中程度 | 中程度 | 中程度 | ダッシュボード、CRUD ツール | 業務ロジックが多いアプリや高度な自動化 |
| Firebase + FlutterFlow | モバイルアプリ構築 | No(Firebase) | 不可 | 低い | 中程度 | モバイル UI が強い | 素早いモバイル MVP | 権限制御が複雑な企業向けシステム |
| Power Apps | Microsoft 向け業務アプリ | No | 制限あり | 中程度 | 中程度 | 標準的 | Microsoft 製品を使い込んでいる企業 | 自己ホストや高い拡張性が必要な構成 |
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結論
ノーコード、ローコード、AI は開発者の仕事を奪うものではなく、エンジニアリングの時間配分を変えるだけだ。
繰り返し作業のような定型部分はプラットフォームに任せ、複雑で重要な処理はコードとしてしっかり作り込めばいい。
大切なのはこれまでと同じで、変化に強く、安定したアーキテクチャを築くこと。
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