序論
昨年、私たちはコアアプリ向けダッシュボードツールのまとめを公開し、データ可視化に取り組むチームが直面しがちな課題について紹介しました。当時取り上げたのは、使い勝手の良い成熟した商用ツールが中心でしたが、ライセンス形態やデプロイ方法、拡張性にはどうしても制約があります。その後読者の方々と話す中で、より低コストで、自由度が高く、しかもセルフホストにも対応できるオープンソースの選択肢を求める声が多いことが分かりました。
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この一年で、オープンソースコミュニティの可視化系ツールは大きく進化しました。自然言語での検索、チャートの自動生成、指標の説明、意味ベースのレポート作成など、AI を標準機能として取り込むプロジェクトが増えています。ダッシュボード構築の作業部分をツール側に任せ、チームが本質的な業務判断に集中できるようにしたいというニーズも高まっています。
そこで今回は、コミュニティで活発に開発され、すでに AI を取り入れているコアアプリ向けのオープンソースダッシュボードツールを改めてまとめました。各ツールの特徴、代表的な用途、AI 機能の成熟度という三つの観点から紹介していきます。あなたのユースケースに合うツールを素早く見極めるための一助になれば幸いです。
まずは、この記事で紹介する6つのツールを簡単に確認してみてください。
| ツール名 | プラットフォームタイプ | AI成熟度 | AI機能の方式 |
|---|---|---|---|
| NocoBase | オープンソース AI ノーコード開発基盤。業務システムと可視化ボードを構築可能 | ★★★★☆ | ネイティブ AI ワーカー体系(モデリング、データ入力、可視化分析。カスタム拡張も可能) |
| Wren AI | オープンソース生成型 BI。自然言語クエリと自動可視化をサポート | ★★★★☆ | ネイティブ生成型分析(Text to SQL/Chart、セマンティックレイヤー) |
| Redash | SQLクエリと可視化ツール。軽量 BI 向け | ★★★☆☆ | ネイティブ AI なし。外部モデルで Text to SQL 拡張可能 |
| Appsmith | 可視化アプリ構築基盤。内部ツールや業務ボードが構築可能 | ★★★★☆ | ネイティブ AI アシスタント(UI生成、データロジック、文案生成) |
| Metabase | 企業向けオープンソース BI。データ探索と分析ダッシュボードに最適 | ★★★★☆ | ネイティブ Metabot による自然言語クエリと指標説明 |
| Grafana | 可観測性・時系列データ向け可視化基盤。業務可視化にも利用 | ★★★☆☆ | ネイティブ AI なし。プラグインや外部モデルで異常検知・分析が可能 |
ツールおすすめ
NocoBase
Official site: https://www.nocobase.com/
Documentation: https://v2.docs.nocobase.com/
GitHub: https://github.com/nocobase/nocobase
GitHub Stars: 20.7k
位置付け
NocoBase は、セルフホストにも対応したオープンソースの AI ノーコード開発基盤です。統一データモデルと柔軟なプラグイン構造を軸に、業務データ管理、可視化、内部アプリ構築をひとつの環境で行える点が特徴です。業務システムのデータをそのまま利用してダッシュボードや BI ボードを構築できるため、社内向けツールづくりに適しています。
主な用途
- 統一データモデルを活かしたダッシュボード構築 モデル化された業務データ・ワークフロー記録は、そのまま可視化データとして利用できます。 可視化の作り方は以下の三つが中心です:
- 標準のチャートブロックで折れ線・棒グラフ・指標カードなどを配置
- JS ブロックでカスタム UI を柔軟に実装
- AI ワーカーが自然言語からレイアウトやチャート構成を自動生成 通常のダッシュボードから複雑な分析まで、幅広い用途に対応できます。
- プラグインによる高い拡張性とシステム連携 マイクロカーネル方式のため、画面パーツ・動作・データソースを必要に応じて追加できます。外部 DB や API とも簡単に連携し、複数データを扱う業務でも柔軟に対応できます。
AI 機能の特徴
- ネイティブ AI ワーカーによる自動可視化 AI ワーカーはデータセットを読み取り、自然言語指示に応じてグラフやレイアウトを自動生成します。設定作業を大きく削減でき、可視化の試行を高速に行えます。

- ナレッジベースやベクターデータベースと連携した分析 業務ドキュメントやルールを参照しながら、検索・要約・構造化出力が可能で、より高度な分析ワークに対応できます。

- 複数モデルのサポートと自由度の高いデプロイ OpenAI・Gemini・Anthropic をはじめとする複数モデルが利用可能で、オンプレ/クラウドの運用形態に合わせて選択できます。
Wren AI

Official site: https://www.getwren.ai/
Documentation: https://docs.getwren.ai/cp/overview
GitHub: https://github.com/Canner/WrenAI
GitHub Stars: 13.2k
位置付け
Wren AI は、自然言語からクエリやチャートを生成し、分析結果まで出力できるオープンソースの生成型 BI プラットフォームです。
主な用途
- 素早く可視化を作成 データソースを読み込み、自動でチャートや基本ダッシュボードを作成でき、日次指標や運用系の可視化に向いています。
- 分析機能を既存システムへ組み込み API を通じて業務アプリに統合し、システム内部でデータ検索や可視化を提供できます。
AI 機能の特徴
- 自然言語による生成型分析 入力文からクエリを作り、結果に応じてチャートやレポートを生成する一連のプロセスを自動化します。
- セマンティックレイヤー対応 ビジネス構造を理解した上で問い合わせを解釈し、より正確なクエリ生成と可視化が可能になります。
- 複数モデルとセルフホストを柔軟に選択可能 大手モデルサービスと接続でき、ローカルデプロイ版もあるため、セキュリティや運用コストが気になる環境にも導入できます。
Redash

Official site: https://redash.io
Documentation: https://redash.io/help
GitHub: https://github.com/getredash/redash
GitHub Stars: 28.1k
位置付け
Redash は SQL を軸に可視化と分析を行う OSS プラットフォームで、データチームでの自助分析ツールとして長く利用されています。
主な用途
- SQL ベースでチャート・ダッシュボードを作成 クエリ結果をもとにグラフ・表・指標カードを作り、自由にダッシュボード化できます。SQL に慣れているチームなら素早く導入できます。
- 多様なデータソースを横断した利用 多種類のデータベースや API を扱え、企業のデータ集約に適した軽量 BI 基盤を構築できます。
AI 活用ポイント
- 外部 AI を使った Text to SQL LLM と連携して自然文から SQL を生成し、そのまま Redash で実行できます。
- AI 生成データをそのまま可視化 AI の出力(JSON や表形式)を API データソースとして接続し、チャートとして表示できます。
Appsmith

Official site: https://www.appsmith.com/
Documentation: https://www.appsmith.com/ai/low-code
GitHub: https://github.com/appsmithorg/appsmith
GitHub Stars: 38.6k
位置付け
Appsmith は、ビジュアル操作で業務アプリを構築できるオープンソースのプラットフォームです。コンポーネント群とデータ接続機能を使い、業務ボードやダッシュボードを柔軟に作成できます。
主な用途
- 業務向けダッシュボードの作成 テーブル・グラフ・リストを組み合わせ、DB や API のデータを可視化できます。KPI ボードや運用画面など、レイアウトや操作性を細かく調整したいシーンに適しています。
- 内部ツール・管理画面の構築 UI、権限設定、ロジックを統合し、データ表示から入力・ワークフローまでをひとつのアプリで実現できます。
AI 機能の特徴
- AI アシスタントによる画面構築支援 文章による説明から、レイアウト・コンポーネント・API 呼び出し・基本ロジックまで生成し、アプリ構築の作業を大幅に簡略化します。
- データ処理や文案の生成支援 取得・整形ロジックの補助スクリプトや、画面説明文の自動生成にも利用できます。
Metabase

Official site: https://www.metabase.com/
Documentation: https://www.metabase.com/docs/latest/
GitHub: https://github.com/metabase/metabase
GitHub Stars: 44.9k
位置付け
Metabase は、直感的にデータ探索を行えるオープンソースの BI プラットフォームで、企業全体での分析やレポート作成に広く使われています。
主な用途
- ノーコードでのデータ探索 質問形式でデータを調べ、そのまま可視化やダッシュボード化が可能です。KPI や事業推移などの定期分析に向いています。
- チームでの共有と運用 ダッシュボードやレポートを共有し、閲覧・編集・購読できるため、部門横断の分析基盤として活躍します。
- 複数データソースを統合して分析 多様な DB と接続でき、散在したデータをひとつの画面で扱える環境を構築できます。
AI 機能の特徴
- AI アシスタント「Metabot」 指標の説明、インサイト提供、質問応答などを通じて分析をサポートします。
- 自然言語でのデータ問い合わせ コマンドではなく文章で質問でき、非エンジニアでも利用しやすい設計です。
- 自動インサイト機能 指標の背景や理由を AI がまとめ、結果をより理解しやすく提示します。
Grafana

Official site: https://grafana.com
Documentation: https://grafana.com/docs
GitHub: https://github.com/grafana/grafana
GitHub Stars: 71.2k
位置付け
Grafana は、時系列データを中心とした可視化・監視のためのオープンソースプラットフォームで、業務指標やダッシュボードの構築にも幅広く利用されています。
主な用途
- リアルタイム監視と指標の可視化 多様な時系列 DB やログ基盤と接続し、グラフ・トレンド・指標カードとして表示できます。システム監視やサービスの稼働可視化に向いています。
- 複数データソースの統合表示 Prometheus、Elasticsearch、MySQL、PostgreSQL、BigQuery などを組み合わせ、1 つのダッシュボードで統合的に表示できます。
AI 活用ポイント
Grafana 自体は AI を内蔵していませんが、プラグインや API を利用して外部モデルの分析結果を取り込めます。
- AI による異常検知・トレンド分析の可視化 外部の AIOps などで検出した異常や変化を Grafana 上で表示できます。
- AI 生成データをそのままデータソース化 AI が出力した構造化データや指標を API で取り込み、グラフとして可視化できます。
まとめ
企業の分析基盤では商用 BI ツールが依然として安定した選択肢ですが、ライセンス費用やデプロイの制約、拡張性の限界などから、導入段階で悩むケースも少なくありません。コストを抑えたい場合や、より自由度の高いカスタマイズを求める場合には、オープンソースの方が柔軟で、段階的に育てていく分析基盤づくりに適しています。
本記事で紹介した 6 つのツールは、用途に応じて次のように選ぶことができます:
- 軽量なダッシュボードを手早く作り、運用負荷を下げたい場合: Redash、Grafana、Wren AI といったクエリ・可視化中心のツールが向いています。
- 業務アプリ、データ管理、可視化を一つの基盤でまとめて扱いたい場合: NocoBase、Appsmith、Metabase のようなより包括的なプラットフォームが適しています。
👉はじめての方へ:NocoBaseを使ってコアアプリダッシュボードを迅速に構築する
これらのツールはコミュニティや機能が今も発展し続けており、チームの成熟度に合わせて技術スタックを柔軟に調整できます。もしどれかを利用している場合や、新しい選択肢を検討している場合は、ぜひ経験や考えを共有してください。