はじめに
SalesforceやKintoneといった選択肢もあった中、なぜ日本の不動産業界のリーダーである同社は、最終的にオープンソースのプラットフォームであるNocoBaseを選んだのでしょうか?
HouseWellとは?
日本では、センチュリー21は誰もが知るブランドです。1983年の日本進出以来、全国に1000店近くを展開し、日本の不動産仲介業界を代表する存在となっています。
この巨大なフランチャイズネットワークの中で、際立った実績を上げる企業があります。長年にわたりセンチュリー21ジャパンで常にトップクラスの成績を収め、最も評価され影響力のあるフランチャイズ加盟企業の一つ、それが HouseWell です。
埼玉を拠点とするHouseWellは、不動産売買、賃貸管理、リフォーム・建設、保険コンサルティング、ITサービスなど、非常に多角的な事業を展開しています。
HouseWellのDX戦略、残された課題は「人事」
HouseWellは急成長を遂げ、従業員も110名を超える規模になりました。
同社は顧客データ管理や業務フローにおいてSalesforceを導入するなど、多くの分野でデジタル化を進めていましたが、人事・総務関連の業務は依然として紙の帳票やスプレッドシートに依存していました。
例えば、月に約30件発生する休暇申請は、印刷、署名、部門間での書類回付といった手間のかかるプロセスでした。遅延や紛失、記載漏れが頻発し、コスト増と従業員の不満を招いていました。
組織構造から異動、年間採用計画に至るまで、人事データの管理も同様で、情報はファイルに散在し、追跡・分析する明確なシステムがありませんでした。この可視性の欠如が、意思決定の遅れや経営効率の低下につながっていたのです。
事業拡大に伴い、CRMだけではカバーしきれないことが明確になり、人事部門のデジタル化も急務となりました。
そこでHouseWellは、既存ツールと連携しつつ、将来の変化にも柔軟に対応できるシステムの本格的な検討を開始しました。
慎重に検討された選択
HouseWellには主に3つの選択肢がありました。
- Salesforceの継続利用: 世界トップのCRMであり、豊富な機能、成熟した技術、強力なエコシステム、不動産業界での多くの成功事例を誇ります。
- ローコードプラットフォームKintoneの導入: 日本を代表するローコードプラットフォームで、使いやすく、迅速な導入が可能。日本企業での知名度とシェアも高いです。
- オープンソースNocoBaseの選択: オープンソースのノーコードプラットフォームとして、柔軟なデータモデリングとUIカスタマイズ性、オンプレミス展開、買い切り型モデルを提供します。
最終決定にあたり、チームはこれら3つの選択肢を徹底的に比較検討しました。
1.Salesforce:強力だが高価
Salesforceは不動産業界で強力なツールと広く認識されています。豊富なCRM機能、標準化されたプロセス、多くのサードパーティ連携を提供し、顧客管理、データ分析、営業自動化を必要とする大企業に適しています。 しかし、詳細な評価を進める中で、HouseWellチームはいくつかの課題に直面しました。
- 高コスト: Salesforceはユーザー数や機能に応じた月額料金制です。従業員数や事業規模の拡大に伴い、長期的なコストが非常に高くなり、経済的ではありませんでした。
- カスタマイズの制限: 機能は豊富ですが、Salesforceのインターフェースやプロセスのカスタマイズオプションは実質的に限られていました。これにより、HouseWellの多様な事業分野の特定のニーズに正確に応えることが難しく、追加のカスタム開発コストも非常に高額でした。
2.Kintone:使いやすいが柔軟性に欠ける
国産プラットフォームであるKintoneは、使いやすさ、操作性、迅速な業務プロセス立ち上げにおいて明確な利点があり、多くの中小企業に好まれています。HouseWellも当初は期待していましたが、詳細な検討の結果、以下の点が明らかになりました。
- モジュールの硬直性: Kintoneのローコードモデルは迅速な業務プロセスの展開を可能にしますが、システムモジュールは標準化されており、パーソナライズの余地が限られていました。これにより、複雑なビジネスシナリオの正確なニーズを満たすことが困難でした。
- 拡張性の限界: HouseWellは将来的にCRM、人事システム、管理ワークフローを統合する計画でした。Kintoneのクローズドなアーキテクチャと限定的なAPI機能は、この長期戦略をサポートするには不十分でした。
3.NocoBase:強力かつ柔軟
当初、NocoBaseは評価リストの一つの選択肢に過ぎませんでした。しかし、比較検討を深めるにつれて、その高い柔軟性とコントロール性が際立ってきました。
- HouseWellのビジネスニーズにほぼ完璧に合致する、非常に柔軟なデータモデリングとインターフェース設計機能。
- 継続的な高額なサブスクリプション料金が発生しない買い切り型モデルで、総コストを抑制可能。
- Salesforceなどの既存システムとのシームレスな連携を可能にし、将来的なシステム統合の余地も提供する強力なAPI連携機能。
- 完全なオープンソースであり、詳細なカスタマイズや追加開発が容易。これは、将来的にシステムを外部向けに標準化する際の技術的基盤も提供。
詳細な機能テストとコスト評価の結果、チームはNocoBaseが機能面で十分に柔軟であるだけでなく、総所有コストもSalesforceよりはるかに低いことを発見しました。同時に、そのオープン性と拡張性はKintoneよりもはるかに優れていました。
慎重な検討の末、HouseWellは最終的にNocoBaseを選択しました。
決定から稼働開始へ:NocoBaseがもたらした変化
NocoBaseの採用決定後、HouseWellチームは迅速に導入作業に取り掛かりました。
フェーズ1:管理・人事システムの迅速な構築
最初のプロジェクトとして、HouseWellは紙ベースで非効率だった人事・管理プロセスをNocoBaseシステムに移行することから始めました。
- 休暇申請プロセスの完全デジタル化
従来、月に約30件の休暇申請が社内で紙で回覧されていましたが、NocoBase導入により、従業員はオンラインフォームで簡単に申請できるようになりました。承認者は即座に通知を受け取り、オンラインで承認できます。プロセス全体がスムーズかつ明快になり、人為的ミスや情報紛失が大幅に削減されました。
システム稼働後、この頻繁なプロセスはほぼ完全にペーパーレス化され、管理効率が明らかに向上しました。
- 人事情報の可視化向上
NocoBaseの柔軟なデータモデリングとカスタマイズ機能を活用し、HouseWellは従業員の組織構造、採用チャネル、人事統計などのモジュールを迅速に構築しました。人事部門は各部門のリアルタイムな採用状況や、様々な役職への人員配置状況を把握できるようになりました。会社全体の人事状況がはるかに明確になったのです。
以前の散在したスプレッドシートやメールによる情報管理と比較して、効率は大幅に向上しました。
フェーズ2:統合からリプレイスへ
NocoBase導入前、HouseWellはすでに顧客管理にSalesforceを利用しており、全ての顧客詳細と取引記録がそこに保存されていました。NocoBaseの利用が進むにつれ、同社はNocoBaseが柔軟な人事管理に適しているだけでなく、CRMシステムの構築にも十分対応可能であることに徐々に気づきました。
そこで、技術チームは迅速にシステム統合に着手しました。
- NocoBaseの強力なAPI機能を活用してSalesforceから既存の顧客データを同期し、データ共有を可能にしました。この効率的なデータ統合により、チームは顧客情報と内部の業務データの両方に一元的にアクセスできるようになり、データの二重入力の回避とデータ一貫性の向上につながりました。
- さらに重要なことに、HouseWellは現在、CRMシステムをSalesforceからNocoBaseへ段階的に移行することを計画しています。NocoBaseのカスタマイズ可能なデータモデルとページレイアウトを利用し、自社の特定のビジネスロジックにより適合し、よりコントロールしやすい顧客管理ソリューションを構築することを目指しています。
このプロセスを通じて、NocoBaseは単なる「補完ツール」から、HouseWellが統一されたビジネスシステムを構築するためのコアプラットフォームへと進化しました。
導入後の実際のフィードバック
NocoBase導入後、HouseWellチームからは明確なフィードバックが寄せられました。
- システムの柔軟性とUIカスタマイズ性は期待通りだった。
- API連携機能は期待以上で、データ統合がよりスムーズになった。
- 全体的なコストが大幅に削減され、長期利用において非常に経済的になった。
- NocoBaseのサポートチームの対応は非常に迅速で、発生した問題はすぐに解決された。
さらなる野望:システムユーザーからソリューションプロバイダーへ
HouseWellは、自社の内部システムをアップグレードするだけに留まりません。不動産業界での豊富な経験を活かし、NocoBaseを利用して業界向けの標準化された情報管理システムを構築する計画です。そして、これらを再現可能なソリューションとして他の企業に提供することを目指しています。 NocoBaseのオープンソース性と柔軟な買い切り型モデルのおかげで、HouseWellは自由にカスタマイズし、さらに開発を進めることができます。これにより、不動産業界の様々なクライアントの特定のニーズに完全に合わせたソリューションを提供することが可能になります。 この戦略的な動きは、HouseWellを単なる内部システムのユーザーから、不動産業界全体のソリューションプロバイダーへと変貌させています。 これは、システム開発コストを迅速に回収するのに役立つだけでなく、同社に新たな収益源をもたらし、IT投資の価値を何倍にも高めるものです。
結論
HouseWellがSalesforceやKintoneではなくNocoBaseを選んだのは、単なるソフトウェア選定ではありませんでした。それは、的確かつ戦略的に先見性のある一手だったのです。
- 高額な長期コストから、柔軟で費用対効果の高い買い切り型モデルへの移行。
- 硬直的な機能モジュールから、高度にカスタマイズ可能なオープンアーキテクチャへの転換。
- システムユーザーから、業界ソリューションの開発者および提供者への変革。
HouseWellの成功事例は、私たちに以下のことを教えてくれます。
真のデジタル成功の鍵は、最も有名で高価なツールを選ぶことではなく、自社のビジネスニーズと将来戦略に真に合致するソリューションを見つけることである、と。
HouseWellの事例が、他の企業の皆様の参考になれば幸いです。
関連読み物: