これまでの記事では、Zendesk の代替となるオープンソースおよびセルフホスト型の AI 工单システムをいくつか紹介してきました。記事の執筆や調査を進める中で、私たちは関連テーマについてのコミュニティでの議論にも継続的に目を向けてきました。
実際の利用体験を踏まえると、従来の工单システムは本質的に「記録」と「処理の流れ」を管理するためのツールにとどまっています。問い合わせを記録し、ステータスを更新し、最終的にクローズするだけで、課題を素早く理解できるか、適切に分派できるか、対応の遠回りを避けられるかといった点は、ほぼ人の経験に委ねられています。
Reddit の技術系コミュニティでは、そうした課題を象徴する 2 つの議論が特に印象に残りました。


近年、より多くのチームが「AI Helpdesk」と呼ばれる仕組みを導入し、AI を活用してサポート業務の負荷軽減を図ろうとしています。しかし、Reddit 上の議論では、評価の内容は驚くほど共通しており、しかも非常に率直です。
- AI は一見すると賢そうな返信文を生成するだけに留まっている
- 実際の対応効率はほとんど改善されていない
- 業務フロー自体は変わらず、既存システムに AI 機能が追加されたに過ぎない
AI が返信作成にしか使われず、チケットの業務フローそのものに入り込まない限り、チームにもたらす効果は限定的です。
💬 NocoBase ブログへようこそ。NocoBase は、あらゆる種類のシステム、業務アプリケーション、社内ツールを構築できる、拡張性に優れた AI 搭載のノーコード/ローコード開発プラットフォームです。完全なセルフホストに対応し、プラグインベースの設計で、開発者にもやさしい構成になっています。→ GitHub で NocoBase を見る
こうした背景から、「AI チケットシステム」は単なる製品カテゴリではなく、再定義されるべきソリューションの在り方そのものだと私たちは考えています。
本来あるべき AI チケットシステムとは、返信を生成するだけの存在ではなく、業務プロセスに深く関与し、チケット内容を自動で理解・分類・分配し、ナレッジベースを活用して実務に使える提案を行い、さらに社内の業務システムと密接に連携できるものです。
本記事では、2026 年に AI チケットシステムが備えるべき中核的な能力を整理し、それらを各種システムでどのように実装できるのかを体系的に解説します。選定時に「AI があるかどうか」という表面的な基準にとらわれず、効率と構造という本質に立ち返るための参考になれば幸いです。
2026 年に求められる AI チケットシステムの必須能力
- 自動理解と要約 チケット内容を正確に把握し、自然言語から要点を抽出することで、担当者の読み込みや確認作業の負担を大きく軽減します。
- インテリジェントな分類とルーティング AI が初期分類や優先度判断を担い、適切なチームや担当者へ自動的に振り分けることで、人手による判断依存を減らします。
- ナレッジベースに基づく返信提案 過去のチケットやドキュメントを活用し、編集可能な対応案を提示することで、実務に直結する支援を行います。
- プロセス全体への AI の組み込み チケット作成前から対応中、クローズ後の整理・振り返りまで、ライフサイクル全体で AI が機能します。
- 制御性・拡張性・セルフホスト性 データ主権とモデルの選択自由度を確保し、特定の SaaS に依存しない構成によって、長期的に運用可能な基盤を実現します。
オープンソース AI チケットシステム選定リスト
1.NocoBase
公式サイト:https://www.nocobase.com/
GitHub リンク:https://github.com/nocobase/nocobase
GitHub Star 数:21.4k
中核となる位置づけ
NocoBase は、データモデルを中心に設計されたオープンソースの業務システムプラットフォームです。プラグイン型アーキテクチャにより柔軟に業務機能を拡張でき、AI 機能もシステムの中核レベルで深く統合されています。チケット管理、ナレッジベース、ワークフロー、社内サービスデスクなどを、一つの基盤上で構築できます。
🎉 NocoBase 2.0 を基盤としたインテリジェントなチケットシステム
適した利用シーン
- チケットフローを柔軟かつ高度に設計したい IT/社内サポートチーム
- 標準的な運用にとどまらず、社内業務システムと密接に連携したい組織
- データ主権、セルフホスト運用、AI モデルの制御性を重視する企業
- チケットシステムを将来的に社内向けのインテリジェントサービス基盤へ発展させたいチーム
AI の拡張方法
NocoBase の AI 機能は単なる追加オプションではなく、「AI 従業員」として業務システム全体に組み込まれています。
- 自動理解と要約
- チケットの自然言語による内容を AI が理解
- データモデルやフィールド構造と連携し、重要情報を自動的に抽出
- 要約を生成してチケット項目に反映し、担当者の確認作業や文脈把握の負担を軽減

- インテリジェントな分類とルーティング
- AI をワークフロー上の判断ポイントとして組み込むことができる
- チケット内容やフィールド情報、過去のデータをもとに自動で分類を実行
- 優先度を算出し、適切なチーム・担当者、または SLA フローへ自動的に振り分ける

- ナレッジベースに基づく返信提案(RAG)
- チケットの解決過程を自動的にナレッジとして蓄積できる
- 新規チケット作成時に、既存のナレッジを参照し、類似する解決方法を提示
- AI 従業員がナレッジ検索を支援し、編集可能な返信案を生成

- プロセスにおける AI の関与ポイント
- チケット作成前に、フォーム入力を支援する形で AI を活用
- 対応中には、分析や提案、情報補完を通じて AI が支援
- クローズ時には、チケットの整理・要約やナレッジ化を担当

- 制御性・拡張性・セルフホスト性
- 100%オープンソースで、セルフホスト運用に対応
- OpenAI、Claude、ローカルモデルなど、複数の AI モデルを選択可能
- プラグイン型アーキテクチャにより、企業の業務要件に合わせて柔軟にシステムを拡張・調整できる

2.Frappe Helpdesk
公式サイト:https://frappe.io/helpdesk
GitHub リンク:https://github.com/frappe/helpdesk
GitHub Star 数:2.9k
中核となる位置づけ
Frappe Helpdesk は、単独のチケットシステムではなく、Frappe 業務プラットフォームを構成する機能の一つです。ERP、CRM、プロジェクト管理などの各モジュールとデータモデルを共有しており、業務システムと一体化したサポート基盤として設計されています。
適した利用シーン
- ERPNext/Frappe プラットフォームをすでに導入している組織
- チケットを業務データ、顧客、注文、資産情報などと横断的に連携させたいチーム
- サポート機能単体よりも、システム全体の一貫性や社内データ連携を重視する企業
- 社内 IT サポートや業務支援を目的とした Helpdesk シーン
AI の拡張方法
Frappe Helpdesk は業務プラットフォームの一部として、チケットを既存のデータや業務プロセスに自然に統合できます。ERPNext を利用しているチームにとっては、独立した AI チケットシステムというより、業務支援のための統合的な窓口として機能します。
- 自動理解と基本的な分類(拡張可能)
- Frappe プラットフォームの既存データ構造と連携
- 外部 LLM や自社 AI サービスを活用し、チケット内容を基礎的に解析・分類

- 業務データに基づく支援的な提案
- チケットを ERP / CRM データと直接紐付け可能
- AI が既存の業務記録を参照し、対応時の参考情報や背景説明を提示
- 高頻度なカスタマーサポートよりも、「業務支援型」のシナリオに適している

3.Chatwoot
公式サイト:https://www.chatwoot.com/
GitHub:https://github.com/chatwoot/chatwoot
GitHub Star:27.1k
概要
Chatwoot は、さまざまなチャネルからの会話をまとめて管理し、それらをサポートリクエストやチケットとして扱えるプラットフォームである。
適した利用シーン
- Web チャット、メール、ソーシャルメディア、IM など、複数のサポート窓口を統合したいチーム
- チケット作成よりも「会話」を起点にサポートを進めたい組織
- サポートの入口段階に AI を導入し、一次対応や初期コミュニケーションの負荷を減らしたいチーム
AI の拡張方法
Chatwoot は、複雑なチケット管理機能よりも、コミュニケーションと受付段階における体験を重視しており、AI 機能もその領域に集中している。
- 自動理解と要約
- 「会話」を中心とした設計を前提としている
- 外部 LLM と連携することで、次のような機能を実現できる
- 会話内容の要約
- 返信文案の自動生成
- よくある質問への自動応答

- チケット生成と事前の振り分け
- 会話内容をルールや AI の判断に基づいてチケット化できる
- チケット作成前の段階で、簡易的な選別や振り分けを行う
- 不要または重複したチケットがシステムに登録されるのを防ぐ

4.Zammad
公式サイト:https://zammad.com/
GitHub リンク:https://github.com/zammad/zammad
GitHub Star 数:5.4k
中核となる位置づけ Zammad は、チケットの作成から完了までの一連のライフサイクル管理を中心に設計された Helpdesk ツールである。マルチチャネル対応、ステータス管理、権限設定、SLA 管理を備えており、業務フローを重視した設計が特徴となっている。
適したシーン
- 安定性が高く、構造が整理された Helpdesk システムを求める IT サポートチーム
- チケットのライフサイクル管理、権限管理、SLA 管理を厳密に運用したい組織
- 既存の安定したチケットフローを維持しつつ、AI による判断補助や提案を取り入れたいチーム
- プラットフォーム全体の再設計ではなく、Helpdesk 運用を中心とした導入を想定するケース
AI 拡張の考え方 Zammad には AI 機能は標準搭載されていないが、柔軟なルールエンジンと API により、既存の業務フローに AI を組み合わせて活用しやすい。
- 自動理解と要約(拡張可能)
- API や Webhook を利用して外部の LLM と連携できる
- 問題の要点を素早く把握できるようになり、サポート担当者の確認負担を軽減する

- ルールを軸にした分類と分派
- Zammad には実運用で十分に使い込まれてきたルールベースの仕組みが用意されている
- AI を活用することで、チケットの主題判定や優先度判断を補助できる
- 既存のルールと組み合わせることで、より柔軟で高度な分派やエスカレーションのフローを構築できる

- ナレッジベースを活用した返信提案
- Zammad にはナレッジベース機能が標準で用意されている
- 外部 AI サービスと連携することで、既存のナレッジ内容を参照しながら、対応に使える返信案を生成できる

5.FreeScout
公式サイトリンク:https://freescout.net/
GitHub リンク:https://github.com/freescout-help-desk/freescout
GitHub Star 数:4k
コアとなる位置づけ FreeScout は、シンプルで制御しやすい共有受信箱とチケット管理を提供するオープンソースのツールである。機能は必要最小限に整理されており、学習コストが低く、「オープンソース版 Help Scout」として扱われることが多い。
適した利用シーン
- 中小規模チーム、または立ち上げ初期のサポートチーム
- メール対応を中心としたチケット運用を行う組織
- 予算に制約があり、複雑なシステム導入を避けたいチーム
- 高度なワークフローは不要だが、段階的に AI 補助を取り入れたいケース
AI 拡張の方法 FreeScout には標準で AI 機能は搭載されていないが、プラグイン機構とシンプルなデータ構造を活かし、限定的な範囲で AI 補助機能を追加できる。
- ナレッジベースを活用した返信提案(拡張可能)
- 既存のナレッジベース、過去のチケット、定型返信テンプレートを参照
- LLM により編集可能な返信の下書きを生成し、サポート担当者が確認・調整できる
- 複雑な多段階推論よりも、よくある質問や繰り返し発生する問い合わせへの対応に適している

- ルールベースによる一次分類
- 既存のルールと AI の判断結果を組み合わせて活用できる
- メールで受信したチケットに対し、一次的な分類やタグ付けを行う

6.Faveo Helpdesk
公式サイト:https://www.faveohelpdesk.com/
GitHub:https://github.com/faveosuite/faveo-helpdesk
GitHub Star:1.2k
中核となる位置づけ Faveo Helpdesk は、Laravel エコシステムを基盤としたオープンソースの Helpdesk システムである。チケット管理、ナレッジベース、基本的なワークフロー管理機能を備えており、コードの読みやすさと拡張性を重視して設計されているため、二次開発や機能追加に向いている。
適した利用シーン
- Laravel / PHP 技術スタックを採用しているチーム
- Helpdesk を土台に、カスタム機能や AI 機能を段階的に導入したい組織
- ナレッジベースの整備やコンテンツ再利用を重視するサポートチーム
- プラットフォーム全体の再構築までは不要だが、一定の拡張性を求めるケース
AI の拡張方法 Faveo Helpdesk では、整理されたナレッジベース構造と高いコード拡張性を活かし、主に「コンテンツ生成や対応支援」の領域から AI を導入するアプローチが適している。
- ナレッジベースに基づく返信提案
- 構造が明確なナレッジベース機能を標準で搭載
- 外部 LLM と連携し、ナレッジベース内容の検索や文章生成を行える
- サポート担当者が編集可能な返信案を提示し、対応効率を高める

- チケット内容の自動理解と要約(拡張可能)
- Laravel エコシステムの AI サービスと連携して実装可能
- チケットの説明文を解析し、要点を自動的に整理・要約
- サポート担当者が問題の全体像や背景を素早く把握できるようにする

結論
選定にあたっては、機能の多さよりも、AI がチケットのプロセスにどこまで深く関われるか、そしてその能力を将来にわたって拡張していけるかという点に目を向けることが重要である。
利用シーンの変化とともに、チケットシステムの役割も進化してきた。単なる問い合わせ記録ツールから、内部向けサービスデスクへ、そして現在では AI によって駆動される業務支援プラットフォームへと広がりつつある。新世代のチケットシステムは、企業内の協業やサービス提供を支える重要な基盤になり始めている。
💕チケットシステムの選定や AI チケットシステムの活用に悩んでいる方にとって、本記事が少しでも参考になれば幸いである。役立ちそうだと感じたら、ぜひ興味のありそうな方にも共有してほしい。
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